〇〇不足がぜんそくと骨折の原因になる!?
更年期に入った頃から、少しでも仕事や家庭内でストレスを感じると
咳が止まらなくなるようになった。
治療の仕事中は呼吸法などで咳をコントロールして出ないようにするが、家に帰った途端に息もできなくなるほどの咳に悩まされる。
おかげで、一緒に暮らしていた次女からは
「母ちゃんの咳がうるさくて寝れない」
と、すっかり嫌われてしまった。
木造住宅であるから、離れた部屋にいても咳が聞こえてしまう。
私は夕方から夜中まで仕事をしていることが多い関係で、夜中に抑えていた咳が一気に出てしまうため、寝ようとしている次女にとっては迷惑この上なかったであろう。
最初の頃は、背中をさすってくれたものだが、度重なると次女が不眠のストレスを抱えて余裕がなくなるため、咳で苦しむ私と余裕のない次女との喧嘩が始まり、そのストレスがまた私の咳を酷くするという悪循環。
本当に「ぜんそく」とは怖い病気であるとつくづく実感した。
数十年その悪循環が波を打つように繰り返されてきたのだが、私が咳が出なくなる期間を体験したことで、ぜんそく症状の改善に大いなる期待を持つ出来事があった。
数年前の、大腿骨頸部骨折事件である。
入院手術を余儀なくされた私は、咳が出ないか心配しながらも多床室に入った。手術前後は気持ちの余裕がなく、頭は足の痛みとどう元に戻れるか考えるのに精一杯であった。入院して10日ほど経って気持ちに余裕が生まれた頃にふと気がつく。
「そういえば、入院してから咳が出なくなったなぁ。」
1日目2日目は、人と会話をするときに多少の咳が出ていて、そのせいで手術前にコロナの検査を7回も受けさせられたり、一時的に1人部屋に隔離されたりしたこともあったが、手術が終わってからはパタリと咳が出なくなった。
自分の治療に専念するために、入院期間中はとにかく休養してリハビリをしようと腹を括ったあたりからである。
仕事を完全に頭から外し、それまで数年間慢性の寝不足であった体に取り返すように睡眠を貪り、余計なことは考えないようにした。
治療の仕事は好きだし、患者さんもいい人たちばかりであるが、あまり顔馴染みでない患者さんの中には無神経に会話を振ってくる方も中にはいるので、それなりにストレスは溜まる。
そのストレスを解消するということを怠っていた。
ふと手帳を見返すと、一年以上私は休みをとっていない。
睡眠は平均で3〜5時間。
当時はまだ車で遠方まで仕事に行っていたこともあったので、夜遅くに車の運転をしていると運転中に意識が遠くなり、後ろの車にクラクションを鳴らされて目が覚めるということが度々起こっていた。
もう体は限界を迎えていたのだろう。医者の不養生とはこういうことをいうのである。
病院の骨密度検査で、
「深澤さんの骨は80代後半の人の骨でしたよ。」
と言われてショックを受けた。私は治療家であり、睡眠以外の自分の体のセルフケアには余念がない。
毎朝、朝6時には起きて日光を浴びながら体操をし、食事は玄米と味噌汁、大好きな刺身といった超健康食のレパートリー。
お陰様で、外から見える年齢は67歳の割にだいぶ若く見えると自負している。
それなのに、骨密度年齢は大幅に自分の年齢を飛び越えていた。
まさかの、骨粗鬆症であった。
私は、自分の生活を振り替えり、骨の老化の理由を考えた。
結論として「睡眠不足」というワードが頭をよぎる。
忙しいことを言い訳に考えることすらやめていたが、睡眠中のオートセルフケアは本当にバカにならない。
これだけ見ても、質の良い睡眠は本当に大切だということが分かる。
「細胞の修復」というのは、成長ホルモンの分泌による効果である。
寝る子は育つという言葉通りに、睡眠中は成長ホルモンが出るために子供はよく寝ることによってどんどん成長していく。
大人はどうなのかというと、成長ホルモンによって細胞がどんどん新しく生まれ変わるのである。
丈夫な骨や内臓を作るには、成長ホルモンを出すことが一番だと言っても過言ではない。(栄養ももちろん大事であるが)
私は睡眠不足によって、この成長ホルモンがあまり出なくなり、細胞の修復が難しい状態になっていたのである。
だから、骨密度が低下して、転んだだけでいとも簡単に骨折をしてしまったのだ。
また、質の良い睡眠をとることによって、脳の情報・記憶の整理がされるために、ストレスの原因になっている出来事をしっかり頭の中で整理して、ストレス状態の改善をはかることができる。
自律神経も整うため、ストレスホルモンの分泌を和らげることも出来る。
睡眠様々であり、睡眠なくして人間の生活は成り立たない。
本題からは脱線するが、長女が介護の仕事をしていた時に、重度の認知症の周辺症状が出ていた利用者さんが、長女の工夫により初めて施設でぐっすりと眠れた次の日の朝のことだ。それまで自分の夫が入院したことや自分が施設にいることをすっかり忘れて施設を飛び出そうとしていた利用者さんは、朝起きて開口一番
「うちのお父さんは入院しちゃったからね、しばらくはここでごやっかいになりますよ。何か手伝いましょうか?」
と、昨日までとはまるで別人のように長女に話しかけて来たのだ。睡眠によって脳の情報が整理され、自分の立場を認識して認知症の周辺症状が和らいだのである。
このことからも、質の良い睡眠がどれだけ高齢者の生活の質を上げるのかがわかるのである。
私の骨折の原因は睡眠不足によるものであることが分かったため、入院中はとにかくしっかりと睡眠をとった。よく寝てよく食べる、模範的な患者である。
そのお陰で、わずか手術から3日後には歩いてトイレに行けるまでに私は回復した。
長女にそのことを後に語ると
「信じられん。」
と返ってきた。
本来であれば、移動する際はナースコールで看護師または看護助手を呼ばなければならなかったが、忙しそうなので1人で行った。
介護福祉士の長女からはこっぴどく叱られたが、そのお陰で3週間で自宅に帰ることが出来たので、世の中には本音と建前があるということだ。
医療従事者には、もっと患者の本来の力を信じて欲しいのである。
さて、この話は、
入院中にしっかり睡眠をとって自分を大切にした副効果として、ぜんそくの症状も改善したという話なのである。
仕事は好きである。人を癒すという仕事をしているので、人のために働くことが大好きである。しかし、つい自分のことを後回しにしてしまう。医療・福祉従事者や治療家あるあるではないだろうか。
本来であれば、自分が整ってこそ、人を癒す仕事ができるというものであるが、私は自分を過信していたために体の声に耳を傾けなかった。
しっかり毎日体操をしているし、食事のバランスも完璧だ。その上、健康に関しては知識があるから、自分は大丈夫である。そう思い込もうとしていた。
少しずつ少しずつ疲労が溜まっていくと、人間はそのことに気がつかない。気づいたら慢性的な疲労が当たり前の状態になっている。しかし、潜在意識はそのことに気が付いているので、体を通して私たちに警告を出してくる。
咳が酷くなったこと、運転中に意識が飛ぶことがあったこと、色んなサインは出ていたのに、私はそれに気がつかないフリをした。自分の体のことは私にとって優先順位が低かったのである。
それでも、患者さんに対しては「しっかり休まないといけませんよ。」「自分の体に耳を澄ませてね。」と伝えている。
私が言っても、説得力がなかったんだろうな、と猛烈に反省をした。
「私が自分の身体を大切にして、不調が出ないようにすることは、患者さんのためなんやな。」
私は大きく納得し、質の良い睡眠を心がけるようになったのである。
睡眠不足こそが、私のぜんそくや骨折の大きな原因だったのである。