2022年12月の出来事であった。
仕事で多忙を極めていた私は、気がついたら休みをほぼ取らない状態、かつ睡眠が一日平均3〜5時間という状態で仕事をこなしており、自分の体がどれだけ疲れているのかなんて考える暇もなかったのである。
出張治療に行く途中、何もないところで突然転んでしまった。
左足を強打し、激痛に顔をしかめながらも何とか立ち上がり、仕事先で治療の仕事を行ったのは良いが、車で帰宅する途中に足はますます痛くなるばかりであった。
ようやく家に着いたのは夜中。
車から凍るような寒さの中に出た瞬間、私は崩れた。
「痛い…」
痛いなんてもんじゃない。
足が動かないのだ。
車から玄関まで這いつくばって移動し、何とか家の中に入る。
「わんわんわん!」
飼い犬のチワワが異常を察して吠える。
私は玄関で倒れ込んでいる場合ではないことを思い出し、生活スペースのある2階まで這って行くことを決意した。
犬が待っている。私が餌をやらないと生きていけないか弱い生命の塊が。
私は激痛の海に身を任せながら階段に飛び込み、ゆっくりと時間をかけて2階へと歩を進めていったのである。
ようやく、2階にたどり着いた時、空は白んでいた。
真夜中から数時間かけて階段を這上がったのである。
犬が時折声をかけ続けてくれていたお陰で、気を失わずに這い上がり続けることができた。
人間は1人では強さを保てないことを痛感する。
リビングに入り、暖房をつけて犬に餌をやった瞬間、私は崩れ落ちるようにリビングに沈んだ。
「寝れば治る…」
痛みとショックと疲労で冷静な判断が出来なかった私は、そのまま睡眠を貪ったのであった。